秘密の地図を描こう
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キラはラクスとミリアリアとともに準備したおやつを手に彼らがいる部屋へと向かっていた。もちろん、ラウも同行している。
「とりあえず、あまり刺激しないようにしないといけないね」
ラウがそう言ってきた。
「わかっています」
彼が本当に《ムウ》なのだとしても、今はその記憶がない。そして、下手に刺激をすれば苦しむのは彼だ。
思い出してほしい、と言うのは自分達の希望ではある。だからといって、彼が苦しむ姿を見たくはない。
「なら、本気でカガリを止めないといけませんわね」
ラクスがこんなセリフを口にしてくれる。
「ひょっとして、まだあきらめてないの? カガリ」
実験をしてみたいのはわかるけど、とミリアリアが言い返す。
「そうなのですわ。アスランなら好きにしていい、と申し上げているのですが」
本人が納得していない、とラクスはため息をつく。
「……カガリ……」
暇なのか、と思わずにいられない。
「捕虜虐待はまずいと言っているのだがね」
ラウが苦笑とともに口にする。
「それに関してはバルトフェルド隊長に見張っていてもらうしかないが」
自分はキラだけで手一杯だ、と続けられた言葉をどう受け止めればいいのだろうか。
「それよりも、中ではくれぐれも注意をするように。いきなり飛びかかってくることはないと思うが」
そう言いながら、彼はネオたちがいる部屋の前で足を止める。そして、端末に手を伸ばすとロックを外した。
「大丈夫です」
ミリアリアの言葉にうなずくと彼はドアを開ける。
「食事を持ってきた」
そう言いながら、ラウは室内に足を踏み入れた。キラ達もその後に続く。
「飯? 今度は何?」
即座にアウルがそう言ってくる。
「甘いの、ある?」
こちらはステラだ。
「今日は唐揚げだよ。好きだったろう? ステラの甘いものは、ちゃんとミリィが用意してくれているから」
落ち着いて、と微笑みながら、キラが言う。
「お手伝いする?」
ステラがそう言いながら歩み寄ってくる。
「なら、お皿を並べてくださいますか?」
「うん」
ラクスの言葉に彼女は嬉しそうにうなずいて見せた。
「今日は割るなよ?」
即座にアウルが突っ込んでいる。
「そう思うなら、君も手伝うのだね。そうすれば、それだけ早く食べられると思うが?」
ラウがこう言えば、アウルも渋々と言った様子で動き出す。
「ずいぶんと手なずけたものだ」
そのときだ。ベッドの方から聞き覚えがある声が飛んでくる。
「人聞きが悪いね。働かないものは食べるべからずだよ」
戦う事以外のことができるようになるのはいいことではないか、とラウは言い返す。
「そうですね。いろいろとできることが増えるのは嬉しいことだよね」
そう言いながら、キラはアウルに手にしていたお盆を手渡す。
「これを食べたら、ゆりかごに入ってね。でも、順番をどうしよう……」
アウルとステラの分、と考えて同時に使えるのは二人までなのだ。しかし、ここには今、スティングもいるし、と首をかしげる。
「ステラは後でいいの。ミリィにお貸しの作り方、教えてもらうの。できたら、ネオに食べてもらう」
即座にステラがこう言ってきた。
「……ステラ……」
勘弁してくれ、とネオが顔をゆがめる。
「あきらめるんだね」
それにラウが笑いながら言い返す。
「一緒に、濃いコーヒーをもらってきてあげてね、ステラ」
さりげなくキラが注意をする。
「わかった。そうする」
ステラがうなずき返す。その様子を、ネオが微妙な表情で見つめていることにキラは気づいていた。